「すみませんが、御社では浴衣の生地のみの販売は行っていますか?」
浴衣というと、今では仕立て上がりの浴衣を思い浮かべるほうが多いと思いますが、実は昔は生地を買ってきたら馴染みの和裁士さんにお願いして仕立てるものでした。
今回お話をいただいたのは、日本舞踊における五大流派の一つ「藤間流」様からの浴衣生地ご注文。
お話を伺うと、お弟子さん達が恵子の時に着るものとの事。
当然着物が当然の世界ですから、それぞれ専用の和裁士さんがいらっしゃいます。
なので、今回は生地のみのご注文となりました。
稽古の時に着るもの、ということは、汗をしっかりと吸いこみ、また柔らかな肌触りが必要。
となれば、染め物「注染」に決まりです。
デザインはどういたしましょう?
「大体のデザインは決まっていますので、こちらを参考に作ってもらえますか?」
ん!!!この藤のデザインは、素人ではいじれない。
すみません、デザインですがこちらのご希望どおりですとプロにお願いしたほうが早くて良いものが出来ると思います。別途料金がかかりますが、プロにお願いしてもよろしいでしょうか。
「わかりました。実は使いたい日にちが決まっていますので、プロにお願いしてください。」
ところで、この藤のデザインですが、1本だけですとデザインに上下ができてしまい、前か背中のどちらかが昇藤になり、またその反対が下り藤になってしまいます。それを防ぐのに、向きの違う藤のデザインを2本入れたほうが良いと思うのですが。
「前と後ろで藤が上がったり下がったりするのはマズイです。わかりました。2本入れてください。」
和服は、洋服の様に肩で前の生地と後ろの生地を縫い合わせていません。
ですのでデザインに上下があると、正面は良いのだけど後ろは逆さまになっている、ということになってしまいます。ですので、できるだけ上下の無いデザインにしなくてはいけません。
デザインの大まかな形が決まりましたので、今度はデザイナーにお願いします。
これだけデザインがはっきりしている、かなり短い日数でデザインが仕上がってきました。
※左側が型のデザイン、右は2送りした時の図になります。(それぞれデザイン1.2ともに)
藤の向きが異なる2つのデザインが上がってきました。
これらを叩き第として、細かな修正を行います。
格子の太さ、巾などを変更し、最終的デザインが出来上がってまいりました。
※左側が型のデザイン、右は2送りした時の図になります。
デザインが決まれば、後は制作にかかるだけ。
注染の染め型を掘り、上がり次第生地を染めます。
染める色は、定番の紺色。
染めが上がり次第、整理工場にて整理して完成です。
今回、実はお話をいただいてから完成まで約3週間。
注染が、たまたま同じ色の染めを同じタイミングで行っており、通常の半分の納期で上がってきたのが大きかったです。
ですがその分、お客様も縫製に余裕を持ってお願いすることができたと思います。
久々に伝統的な浴衣生地を作られせいただき、感謝です。
宗家藤間流
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