商社の営業マンが、旅館やホテルに浴衣を売り込む時に使う嘘を書いておきます。
昔は旅館やホテルのオーナーもしっかりとした知識があって、下手なことをいうと怒られたり相手にされなかったりしました。(僕も新人のときにはよく怒られて、それでいろいろと知ることとなりました)。最近は経営者が海外のオーナーに変わったり、オーナーの代替わりが行われたりで、旅館浴衣の知識の無い方が増えてきました。
ざっくりとですが、騙されないようにするためにも、よく言われる嘘を書いておきます。
よく言われる”嘘”ですが、だいたい以下のような物があります。
- 小巾生地は、背中に縫い目があるのでそこから破れてくる。
- 小巾生地は、背中に縫い目があるので寝た時に縫い目が邪魔で寝にくい。
- 中国製だけど、ディクセル顔料でプリントしているから日本製と同じ。
- 派手な柄だから、一般用の浴衣と同じように外で着ても大丈夫。
1、小巾生地は、背中に縫い目があるのでそこから破れてくる。
2、小巾生地は、背中に縫い目があるので寝た時に縫い目が邪魔で寝にくい。
小巾生地というのは、生地幅36cmの昔からある生地です。それに対し広幅というのは、72cm、108cmと小巾の二倍三倍の巾の生地になります。小巾生地で浴衣を作るときは、背中部分は横に二枚生地をつなげます。広幅の場合は一枚の生地で作ることが出来ます。
生地を作っている糸よりも縫い糸の方が丈夫です。長年浴衣を見てきて、縫い目から破れてくる浴衣は見たことが有りません。逆に破れてくるのは、縫い目以外のところから。
また寝た時に縫い目が邪魔になるとの話がありますが、棒とか硬いものがあるわけではなく、単なる布のつなぎ目ですので気になることは殆どありません。(個人的にどうしても気になるという人もいらっしゃるかもしれませんが)。浴衣は余裕をもって着るものですので、縫い目がみっちり肌に触れていることはありません。
嘘の理由
小巾生地で浴衣を作ると、広巾生地で作るよりも安く出来ます。
旅館浴衣用の小巾生地は、日本国内でしか生産していません。さらに年々生産量が減っています。
小巾生地で浴衣を作りたくても小巾生地が手に入れることの出来ない商社や問屋がたくさんあります。
その手に入れることの出来ない商社や問屋が、広巾生地を使って浴衣を作る理由としているのが上記の話です。
3、中国製だけどディクセル顔料使っているから日本製と同じ
ディクセル顔料というものはありません。
多分、言いたいのは「ディクセル方式顔料プリント」と同じということでしょう。ディクセル方式顔料プリントというのは、旅館浴衣専用に(株)DIC:昔の大日本インキ が開発したプリント方法の事です。専用の前処理から専用顔料の使用、専用の後処理まで一貫した方法でプリントされます。ディクセル顔料を使えばOkというものではありません。ディクセル方式顔料プリントがが出来るのは、DIC認定工場だけで、日本では浜松市にある3工場しかありません。また海外ではできません。
第一、共産主義国に化学薬品(顔料)の大量輸出が出来るようになったとは聞いたことがありません。
嘘の理由
完全に無知からきている嘘です。安い中国製の浴衣を売り込みたい商社や問屋が、「中国製だから色がすぐに落ちちゃうんでしょ」との言葉に、「ディクセル顔料で染めているから大丈夫」「ディクセルと同じ強度があるから」と言って国内の営業マンが売り込んだのが始まり。中国の工場ではそんな事言っていません。
業務用繊維の世界では、営業マンは使い捨てのようなところがあります。使い捨てにされる営業マンが、とりあえずの売上を確保するためについた嘘が発端です。使って色が落ちる頃には自分がいない、もしくは居ても「洗い方が悪かった」で済ませられます。
4、派手な柄だから、一般用の浴衣と同じように外で着ても大丈夫。
いやいやいやいや、駄目です。旅館浴衣はすぐに分かります。
いろいろなところの寸法が違います。一番わかり易いのは「衿巾」。旅館浴衣は襟幅が狭いため、前から見るとすごく違和感があります(屋内では大丈夫ですが)。要は、お気に入りの柄のパジャマを着て外に出る:すれ違う人にガン見される、と同じ状況になります。
嘘の理由
こちらも無知からくる嘘です。浴衣を販売している商社、問屋でも浴衣をあつらえて来ている人はごく僅か。まして着物をよく着る人は殆どいません。なので単に柄だけ見て、一般物と同じ、と感じて「外で着ても大丈夫」と言ってしまったと思います。
実際に夏祭りの場面で旅館浴衣を着てきた人を見ましたが、違和感バリバリに有ります。
旅館浴衣を提供する旅館やホテルが減ってきています。
理由の一つに、宿泊されるお客様が浴衣よりもパジャマの方が着慣れていると言った点があります。
さらにそれに輪をかけて、粗悪な旅館浴衣が出回っていることが上げられます。
真面目に旅館浴衣を作っているものとして、旅館浴衣が末永く使い続けられるようにしたいと思っています。