世間一般的に、どうも人件費を軽視する傾向が強いように感じます。
ネットでよく言われる「原価厨」とかがもっとも最たるものではないでしょうか。
繊維業界は、人件費が軽く見られる業界の一つです。
発注先が「この商品を○○円で売りたいから」「○○円でしか売れないから」と、先に販売価格を決められる場合が多く見られます。
で、次がキャッチコピーに使えるような「○○にこだわった」「希少な○○を使った」という、材料の部分。
高価な材料を使い、すでに決まっている販売価格。じゃあ、利益を出すために製造は人件費の一番安いところで。
みたいなケースが本当に良くみられます。
人件費を考えるのに、「分賃」という考え方があります。
簡単に言うと、「最低賃金(時給)を60で割り、1分あたりの賃金を出したもの」です。
その作業が何分でできたか、これでその作業の工賃はいくらか、を出します。
静岡県の令和元年の最低賃金は、858円
(参照先:http://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-210/chingin/saiteichingin.html)
858円を60で割ると、14.3円。
最低賃金を基準とした場合、1分でできる仕事は14.3円払わないといけません。
例えば、シーツを作る場合、裁断して裁断面を二箇所縫います。(天地三巻ってやつです)
幅広の・・例えばキングサイズのシーツの場合、サイズは270cm*300cmです。
270cm巾の生地を持ってきて、裁断台に乗せて生地を300cmじゃなくて縫い代入れて305cmに伸ばして、裁断します。
裁断が終わったら、今度は縫製です。
270cmの裁断面を三巻を掛けながら、天地二箇所縫います。
裁断はまとめて行いますし、三巻もラッパと呼ばれる治具を使います。
100枚作るのに、生地を伸ばして裁断するのに2人がかりで60分とすると、1枚あたり0.6分となります。
これで裁断工賃は8.58円。
今度は縫製。
巾270cmの三巻を天地。手慣れた人で1箇所1分とすると、二箇所で2分。でもひっくりかえしたりする作業があるので、1枚仕上げるのに3分くらいかかるとします。
縫製工賃は、14.3円*3分:42.9円
裁断工賃と縫製工賃を合計して:8.58円+14.3円:22.88円。
でも実際はこれだけではありません。
絶えずこれだけの作業で物ができるのではありません。
これに材料の移動にかかる時間、使われる糸の量、機械のセッティングにかかる時間も必要です。
なので、実際の必要な時間は、上記の時間よりも多くなります。
※上記の時間は例えばの話です。本来かかる時間ではありません。わかりやすいような設定の話にしています。
上記の話は工賃に対する分賃の考え方ですが、これは営業など他の職種でも同じです。
例えば、奥さんと子供が居てとなると、月の総支給40万円くらいは必要でしょうか。
40万円として、月20日勤務、一日8時間労働とすると、9600分。
40万円を9600で割ると、約41.67円。
1分あたりの賃金は、41.67円となります。
会社は、利益を出さないといけません。人件費だけでなく、様々な経費や税金もあります。
なので、月40万円の給与だったら、1分あたり41.67円以上の利益を出さなくては会社としては困ってしまいます。
こうして考えると、仕事は常に時間を大切にしなくてはいけないのもです。
利益を出すためには、仕入れ価格を減らして販売価格を上げるのが手っ取り早いのですが、販売価格は中々上がりませんので仕入れ価格を減らすほうになりがちです。
でもちょっと待ってください。
「仕入れ価格を減らして、販売価格を上げる」そうしたいのは何処も同じ。
販売価格が上がらなければ、仕事を受けないほうが良い場合もあります。
今、「ものづくり」の現場に立っていると、ものが作れる環境がどんどん縮小しているのが分かります。
年々、色々な工場が高齢化のために閉鎖となっています。
今までは「オタク高いね、他でやるからいいよ」という事で進められてきたのが、工場が「そんな安く言われるなら作らない」となっていきます(実際にこのような事が増えてきました)
これからも変わらない「ものづくり」をしていくためには、正統な金額を払う必要があります。
そのことに早く皆が気づいて欲しいと思います。