「他にはない、新しい旅館浴衣のデザインを!!」と言ってデザインされる浴衣案のほとんどが、”絵羽浴衣”です。
一般的な浴衣柄である”総柄(繰り返し柄)”のデザインもありますが、いきなり出てくるデザインは”絵羽浴衣”が本当に多いのです。
これって、世間一般的に浴衣や着物をあまり着なくなって、和装のデザインになじみが無くなっている事と、Tシャツのデザインと同じように浴衣も考えられていることが原因だと思います。
簡単に言うと、浴衣のデザインを作る時は浴衣の正面図をまず描き、そこに色々な模様をはめ込んで描いていく、というデザインの仕方になっています。
本当の浴衣のデザインを作る時は、生地幅と型の送りのサイズの長方形のなかに、上下の無い模様を入れていきます。
ただこれはやはり経験が必要です。長方形の図案から着姿をイメージする必要があるからです。
デザイナーにも得意不得意があるのは当然で、web系のデザインが得意の人もいれば、DTPが得意な人もいます。
デザイナーだからと言って何でもできるのなら、ファッションデザイナーとかの専門職はいらなくなるわけで、やはりデザイン業界でも色々な世界があるわけです。
「ってそんなの当然じゃん」と突っ込まれますが、意外と全て同じに考えている人が多いのが現状で、いちいち描いておく必要があるのが現実だったりします。
で、話は「絵羽浴衣」に戻ります。
「絵羽浴衣」とは、上記の写真の様に、裾なら裾、身ごろなら身ごろと、それぞれ決まった場所に決まった柄が出ている浴衣のことです。
主に盆踊りや日本舞踊などの踊り用として使われます。
作り方は、それぞれの部品ごとに柄を付け、それを手縫いで縫い合わせます。
つまり、右身ごろは右身ごろ用の染め型を作り、右身ごろ用の生地に柄を乗せ・・・ということを、全てのパーツで行います。
浴衣は8パーツありますので、染型も8個(デザインによって異なりますが)必要であり、それでできてきたパーツを手で合わせて縫っていくわけです。
しかも手捺染で柄を付けていくので、一色につき1型必要であり、1着につき8型使うなら、2色使いなら16型、3色なら・・・ということになります。
一般的な”総柄”の浴衣は、1色なら1型です。
つまり”絵羽浴衣”は、8倍の型が必要であり、また総柄の浴衣がミシンで仕立てる事が多いのに対して、手縫いで仕立てることから、そりゃあ納期も価格もかかります。
旅館やホテルなどで使われる寝間着仕立て浴衣は、不特定多数の人が着るものです。
もう一度言いますが、不特定多数の人が着ます。
これがどうゆう事かというと、毎日洗濯をする必要があり、当然浴衣は消費が激しい消耗品という事です。
なのでコストはできるだけ抑えたいのが旅館・ホテル柄の気持ちです。
さらに耐久性が高くて、できるだけ長く使えるものが欲しいのです。
実は旅館浴衣の新しいデザインとしてお客様から出されるものにも、「絵羽浴衣」のデザインが多くあります。
絵羽浴衣の実情は、上に書いた通り。
1枚単価が高く、製造に時間のかかる「絵羽浴衣」は、旅館やホテルの使用条件には当てはまりません。
また絵羽浴衣は、一般的な場面での使用を前提として作られているため耐久性に劣ります。
まして旅館やホテルの浴衣用として使われる「ディクセル方式顔料プリント」と比べると、かなり劣ってしまいます。
このディクセル方式顔料プリントは、総柄(繰り返し柄)の浴衣にしか使えません。
ディクセル方式顔料プリントは、上の様に円筒形の染め型を使って捺染されます。
ですので、浴衣の各パーツごとに柄を付けるようなことはできません。
もちろん、円筒形の染め型を使ってプリントするという点だけでなく、ディクセル方式顔料プリントは生地の前加工も、使う顔料も、色付けし終わった後の焼き付けなどの後加工も特殊です。これら一連の加工があって、業務用として使える高い耐久性が出てくるのです。
時々、どうしても絵羽浴衣を旅館浴衣に使いたい、何とかならないのか、といった問い合わせをいただきますが、何ともなりません。
もちろん、絵羽浴衣を旅館・ホテルで使うのは自由ですので、実際に使っているところもありますが、それはそれですごいなぁと思っています。だって1枚単価が一般的な旅館の数倍であり、耐久性が数分の一しかないのですから。
できれば新しいデザインの旅館浴衣を作る時は、最初にご相談いただけるとありがたいです。
それに合った作り方をご提案し、それにそったデザインを提供していただけると、コストもかからず納期も短く出来上がります。