「オリジナル柄の浴衣を計画しているのですが、御社で扱っている浴衣の生地の見本と定番の形の浴衣を1枚、送ってもらえませんか? 企画は弊社で行い、制作を御社にお願いしたく思います。で、他の会社と相見積を取っていますから、御社にも是非協力して欲しいと思います。」
はい、お断りします、と答えたところ電話の向こうでは「信じられない!せっかくの仕事の話を断るの?」みたいな感じになりました。
ですがきっぱりとお断りいたしました。
理由は、浴衣は昔から形が決まっている物ですし、伝統的に形が決まっているのを知らないのは自分で浴衣を着たことがない、もしくは購入したことがない、ということで、その基本的な感覚が無いという事は売れるものを作れないにも繋がります。
それに生地見本に関しても、デザインによって注染だったりプリントだったりと染め方が変わるわけで、その都度それに適した生地が必要になってくるわけです。
「デザインを起こすのに、浴衣の本体や生地を見ながら起こしたいから見本を送ってくれ」、というのは順序が違います。
「じゃあアイエス産業は生地見本を送ってくれないのか。」というと、それも違います。
弊社では必要に応じて生地見本を送りますし、また初めてオリジナル浴衣を作る場合は必ず生地見本を送っています。
デザインが決まり、それに合わせて染め方が決まった際に、じゃあこの生地で染めますよ、と生地見本を送ります。
できれば、その染め方と同じ(プリントならプリントされた生地、注染なら注染された生地)を送ります。
そして、生地の確認を取ってから、正式な注文をいただきます。
最初に生地見本を希望して、「じゃあ」って上の写真のような生地を送ったとします。
デザインが出来てきて、例えですが、注染を希望してきたとして注染できない生地を選んでいたらどうしますか?
今さらこの生地ではできません、なんて言ったら最初からやり直し。
他にも「プリントできる生地、できない生地」だってあります。
デザインが出来ていない状態で生地見本を送るという事は、お客様にしても弊社にとってもリスクが大きすぎます。
また「浴衣一着送ってくれ」というのは、本当に勘弁してほしいと思います。
もちろん、お話をいただいて話が煮詰まってきて、じゃあ確認のために一着見せてくれない?というのでしたら、弊社でも喜んで送りますし、逆に一枚送りましょうか?という話もします。
ですが、初めて電話がかかってきて(初めてメールを送ってきて)、「見本として浴衣を一枚送ってくれ」というのはお断りします。
浴衣一枚、けっこうな価格です。
本仕立ての物だって数千円します。
顔も見えない、初めて声を聴いた、仕事かどうかもわからない人に、数千円の物を無料で配布できますか?ということです。
浴衣を着たことのある人、浴衣を自分で購入したことのある人は、多分ですが「浴衣を送ってくれ」とは多分言わないと思います。
「はぁ?!、浴衣の見本を見ながらオタクに頼む浴衣のデザインを考えたいんだけど! 実物が無いとデザイン起こせないんですけど」
実際に言われた言葉です。
えー、実際に個人向けに販売する浴衣をデザインするのに、この人は浴衣を着たことが無く、浴衣を購入したこともなく、無料で浴衣をせびるという事はこれからも浴衣を購入する気はないんだなぁ。実際に浴衣を買う人はきっと浴衣が好きな人たちが多いでしょうから、そういうお客様は浴衣に興味のない人がデザインした物は選ばれないんだろうな、と思います。
オリジナル浴衣を作る時の流れは、
- 使う用途、枚数、納期を明らかにする。
- 仕立を決める。
- デザインを決める。
- 生地を決める。
で、見積もり、発注の流れになります。
決して、
- 生地を決める
- 仕立を決める
- デザインを決める
- 納期、枚数を明らかにする
ではありません。
(いや、オリジナルの浴衣をいくつも手掛けている方は、生地や仕立てから決めても良いと思いますが、きっとそうゆう方々は最初に見本の浴衣を1着よこせとかは言わないと思います)
そうそう、最初に「しっかりお断りしました」と書いていますが、実際はきちんと理由を述べてお断りしています。
ただ逆上する方は、こちらの説明を聞いてくれません。
なんかなぁ、モノづくりってそうやって進めて行く物ではないと思うんですけどねぇ。