オリジナルデザインの浴衣を作りたいとお問い合わせいただいたときによく言われるのが、
「下着が透けない厚手の生地でお願いします。」
いやいや、浴衣はいくら気楽に着られる着物と言っても、素肌には着ないでしょ。
女性だって男性だって下着が透けないように一枚下に着るものですよ、と言っても、透けない生地にこだわる人は実際に浴衣を着たことのない人が多く、確信持ってイメージで話をしてくるので、説明しても聞いてくれません。
実際にTwitterでも投稿されていましたが、女子高生が肌にそのまま浴衣を着ていて下着がバッチリ見えていて、もう可哀そうで可哀そうで仕方なかった、とのコトでした。ことわざで「最初から見えているパンツに一文の価値もない」とありますが、ホント下着が見えているのは見苦しいのです。
「下着が透けない生地でお願いします」と行ってくるお客様が一番多いのは、旅館やホテルで使う浴衣を希望される方々です。
どうも「旅行に出かける」というと派手な下着をつけてくる方が多いそうで、そんな方々でも安心して着られる浴衣が欲しいと言うのは、まぁ当然といえば当然かも知れません。
ただ透けない生地というと、かなり厚手になることが想像できます。
一体どの程度の厚さがあれば透けないのか、実際にやってみました。
ちなみに浴衣生地は「白」しかありませんので、大もとの白い生地で実験してみました。
まずは、一般的な旅館浴衣用の「30/20 別岡」生地からです。
注染浴衣など、本仕立て浴衣に使われている生地(30/30 特岡)よりも、旅館浴衣用の生地のほうが若干厚めです。
旅館浴衣用の生地は、30/20。経糸30番手、緯糸20番手です。糸番手は数が少ないほうが太くなります。
太い糸=厚くなる、のは当然の理屈ですので、本仕立て用の浴衣生地が経糸30番手、緯糸30番手なので、本仕立て用生地よりは厚くて下の柄が透けにくいということになります。
見てわかるように、もうはっきり見えるくらい下の柄が透けています。
次はもう少し厚い「シーチング」です。
シーチングはシーツに使われる生地です。
糸番手は、経糸20番緯糸20番。先の「30/20 別岡」よりも若干厚めです。
シーチングも旅館浴衣に使われたりします。厚手と言っても、風合いが柔らかくて「30/20別岡」と風合いはそれほど変わりません。
厚手と言っても見ての通り、下の生地は透けて見えます。
写真は、ちょっとシワが多いので透けにくいように見えるかもしれませんが、透け具合は先の生地と変わりません。
じゃあもっと厚い生地なら透けないのか、ということで、次は「カツラギ」です。
カツラギ生地は、平織りではなく綾織の生地です。
織り方が厚みが出るような織り方をしていて、色をつければデニムと同じような風合いになります。
上記の生地は、病院や看護着、ファッションホテルのガウンなどに使われる生地ですが、ズブ染めにしてズボンなどにも使われます。
厚手で丈夫な生地ですが、見てのとおり透けています。
透け具合は薄くなりましたが、透けないということはありません。
じゃあもっと厚い生地でみてみます。
次は「ネル」生地です。
「ネル」生地といえば、ネルシャツだったりネルドリップだったり、と厚手で目の詰まった生地です。
透ける透けないとか、そういう対象の生地ではないのですが、比べてみると下の柄は透けます。
もし浴衣を作ったとした場合、身体にぴっちりくっつくので下着は透けます。
ホント、どのくらいの厚さがあればよいのでしょう。
ということで、最後は「11号 帆布」。
ようやく透けない生地が出てきました。
11号帆布といえば、バッグに使われる生地です。
柔軟性とは縁遠い、ゴツくて硬い生地です。
ここまで厚くてゴツくならないと、透けてしまうということです。
実際のトコロ、帆布で浴衣は作れませんし、作ったところでとても着にくい物が出来上がります。
じゃあやっぱり下着が透けるのは仕方ないのか、というと、透けないようにするためにはデザインで調整するという方法があります。
また本仕立ての浴衣なら、透けないような下着をつける。旅館浴衣なら旅行でもあまり派手な下着は使わない、といった気の使い方も必要です。
一概に「下着が透けない生地で浴衣を」という場合、とても難しいことがわかりました。
なので透けない生地ではなく、提供する側としては透けないデザインで浴衣を作ることをオススメいたします。