この間、注染工場の社長と話をした時、「もう男性用の浴衣は染めないから。」と言われてしまいました。
別に男性用の浴衣の注文をした時の話ではなく、ホント世間話の中での話です。
世間話の中なので「またまた~。」なんて言っていたのですが実は本当の話しで、要は男性用に多い縦縞のような連続したデザインの浴衣生地は染めない、ということでした。
注染というのは、生地を蛇腹状に折りたたみ上から染料を注いで染めます。
染まってはいけないところには、あらかじめ糊を置き、色を付ける場合は糊で作った土手で色移りを防ぎます。
ただ蛇腹状に折りたたんだ、その折り目のところは繊維の目に沿って染料が流れやすく、折り目を跨いだ柄の場合に折り目のところで染料の”にじみ”が出てしまうことがあります。
この”にじみ”はどうしようも無いことで、1反染めるうちにどうしても何箇所かは出てしまいます。
昔は浴衣といえば注染が多かったのですが、そのときは「注染とはこうゆうもの」「注染だからしかたない」と別に問題にされませんでした。
ですが今の時代、浴衣を着る人も少なくなり浴衣といえば中国製のプリント物がほとんどとなりました。
当然プリントだと染料のにじみはありません。
生地の上に顔料が乗っているだけですので、クッキリハッキリです。
「伝統の注染浴衣」と言って納めた先(大型ショッピングモールやデパートなど)で販売員が浴衣をあまり知らない、自分でも着たこと無いし自分の浴衣を持っていない、という人が増えた時、注染の”にじみ”は不良箇所とみなされるようになってしまいました。
注染の染め方上しかたない”にじみ”ですが、納めた先が「これは不良品ですっ!!」と頑なに認めない状況が続き、そこで最初の「男性用の浴衣はもう染めない。」ということになりました。
今染めるのは、女性用のデザインに多い、柄が散らばっていて折り目に柄がかからないモノだけ。
注染は染料を使っているので風合いが柔らかく、まして浴衣は夏に着るものですので柔らかな風合いの注染浴衣は着心地がとても良いので個人的に大好きです。
中国製のプリント浴衣は、繊維の上に顔料が蓋をしているようなものですので、暑くて着られないと思います。
自分でお客様に勧める時は、やはり自分が気持ち良いものを勧めたいものです。
なので今回の「男性用浴衣(折り目を跨ぐデザインの浴衣)は染めない」という言葉は、とても残念です。
と言っても間違えないでください。
安価で染めてくれる染工場さんが染めないと言っているだけで、他の高級浴衣を染めている工場は今まで通りです。
価格にこだわらなければ、今まで通り染めることはできますから。
上の梯子柄の浴衣は、江戸注染の浴衣です。
江戸注染は、浜松の注染よりも高価ですが技術があります。
でもこうやってにじみが出る場合があります。
「えっ!これだけのにじみ?」と思う方も多いと思いますが、大型ショッピングセンターやデパートですとお客様からのクレームに神経質になっていますので、これだけで不良の対象です。
なので結局無難なプリント浴衣になってしまうのです。
「悪貨が良貨を駆逐する」という言葉がありますが、無知が伝統を駆逐するといいますか、着物が好き浴衣が好きな人間にとってはとても残念な風潮です。
ホントにねぇ、蒸し暑い夏の日の注染の浴衣って良いものなんですけどねぇ。