舞台衣装の股引の膝が擦れてすぐに白くなるので、よく買い直している。しかし買い直したものは身体にしっくり合わないので、購入後に手直しを加えている。
という話を聞いて、それなら染め直しすればどうでしょう、と提案をいたしました。
新品同様にはならないけど、購入後に手直しをする手間を考えればすでに身体に有っているものを直す方が着る方にとっても良いのでは、と思い話をしました。
染めをお願いするのは、名古屋黒本染めの伝統技能工芸士さん。
信頼できる技術のあるところです。
その染工場の定番の”濃紺”で染めれば、擦れて白くなった股引も蘇ります!!
と頭の中で考えたとおりに行かないのは、染の世界の難しいところでした。
上の写真は実際に染め終わった股引の写真です。
そう、”染め終わった”モノです。
白く擦れたところも染まっていますが、やはり白っぽく目立ちます。
全体的に同じように染まると思ったのですが、擦れて白くなったところはそれなりにしか染まっていません。
「擦れて白くなっているところもの染料は入るけと、やっぱり下地が違うと擦れていないところに比べて染料がうまく乗らないんだよね。これでも数回染めたんだよ。だから染める回数増やして白く擦れたところは目立ってしまうんだよ。」
染屋さんの話しをまとめると、上の図のようになります。
擦れて下地がでて白くなっているところに染料が乗っても、他の部分も同じ用に染料が乗るので、色の濃さの違いが出てしまうということです。
うーん・・・、染め直しで股引の買い替えの頻度を下げようとしたのですが、上手く行かないことがわかりました。
じゃあ白く擦れた部分だけに染料を乗せればよいのでは、となりますが、それは周囲の擦れていない生地との差異が出てしまいますし、うーん、うーん、これは困った、染め直しというのは悪手だったのかも。
先日東京新宿の染め屋めぐりに行った際、絞り体験に参加してきました。
その際に斜めの格子柄に挑戦してきたのですが、染め直しが上手く行かなかった理由がよくわかりました。
四角く畳んで木材で挟み染めます。染まったら木材の挟み方を変えて染めます。
1回目染めた部分、2回目染めた部分、2回とも染めた部分、それぞれに濃淡がついて模様になります。
そうです。
股引の白く擦れた部分とそれ以外の染まっている部分の色の差は、この絞り体験で染めた生地の模様と同じなのです。
回数を増やしても、乗っかる染料の量の差は変らないということです。
今回の股引の染め直し、実際にやってみないと染め直しでどれだけ違いが少なくなるのかわかりませんでした。
いや、事前に試しで白く擦れた股引を1着染めているのですが、その時も差異がありましたら今回ほどでは有りませんでした。
枚数が増えたことにより、染まり具合も異なってきたと予想されます。
いや難しい、ホント、自分の想像通りに出来上がってこない難しさがあります。
お客様は「購入するより安く済んだし、まだ目立っているけど使う場所は色々あるから大丈夫だよ。」と言ってくださいました。
ですが染めの難しさを実感した経験になりました。