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旅館浴衣のデザインは何を重視するか

先日、TVを観ていてあるデザイナーが話していたのですが、「デザインは機能である」と。

すぐに浴衣のデザインに結びつけてしまうのは、自分の良くないところかもしれませんが、そのデザイナーの言ったとおり浴衣のデザインも機能だと思います。

 

夏祭りや花火大会に着ていく浴衣も、やはり着ている人がきれいに輝いて見えるようなデザインが必須であり、恋人や友人に「その浴衣似合っているね。」と言われるととても嬉しかったりします。

花火大会や夏祭りなどに着ていく本仕立て浴衣は、好きな柄の浴衣を色々合わせながら選びます。(とても楽しい時間なのです)

 

一方、旅館やホテルに宿泊したときに提供される浴衣は、好きな柄を選べません。

最近「たくさんある浴衣の中から好きなデザインの浴衣を選んでください」のサービスもありますが、本仕立ての浴衣を店で選ぶほどの様々な浴衣があるわけではなく、多くたって6~8種類の中から選ぶしか有りません。

その中に気に入らない浴衣しかなければ、それは選べない浴衣と同じこと。一種類しか出されないのと同じです。

 

でさて、旅館やホテルで提供される浴衣のデザインは、どんな機能を求めているのでしょうか。

 

 

旅館やホテルの浴衣のデザインは、やはりその泊まった旅館やホテルのもつコンセプトに沿ったものでなければいけません。

例えば「癒やしの時間を提供する」のでしたら癒やされるようなデザインであり、「海のご馳走を腹いっぱいに」だったら海に合わせたデザインがよく合し、「非日常を味わおう!」でしたらやはりそれに合わせたデザインが欲しくなります。

 

「何をお前は当然の事を言っているんだ。」とおっしゃる方、たくさんいると思います。

ですが、今良く使われている浴衣を改めて見てください。

その旅館やホテルのコンセプトに合わせたデザインの浴衣を使っているところ、どれだけあるでしょうか?

 

 

 最近の浴衣の流行りはというと、とにかく派手。とにかくたくさん色をつかった浴衣です。それで端から端までみっちり柄が詰まっている感じ。要は、中国製の「選べる浴衣」のデザインだったりします。

 

そんなデザインの浴衣は、どんな機能を感じて旅館・ホテルが使っているのでしょうか?

まさか「癒やし」とかじゃないですよね。どちらかといえば「非日常」。キラキラ派手派手。

中国製の浴衣のカタログを見て思ったのは、踊り用の衣装カタログと同じ感じでした。

 

 

 

「きれいな浴衣だとSNSで映えるでしょ!インスタ映えとか」よく聞きます。

「インスタ映え」も機能の一つです。

だけど、上のカタログ写真を見て、映えているのは何でしょうか?

少なくとも着ている人が映えているわけでは有りません。

 

「浴衣を着ている人がきれいに見える」、これを目的とするなら、最初に上げた「いかにも旅館浴衣」みたいな浴衣の方がきれいに見えると思います。

 

実際に映画やドラマなどで使う旅館浴衣は、白地に紺色の伝統的なデザインの浴衣がほとんどです。

その理由をスタイリストさんが教えてくださったのですが、「俳優さんの顔がきれいに見えるから」だそうです。

映画やドラマは、やはり演じている人を引き立たせなくてはいけない場面ですので、ごちゃごちゃしたデザインの小物(浴衣も含め)は避けられます。

実際に、少し前にヒーロー物の番組でヒーローたちが旅館に泊まるシーンで、ピンクや空色の花柄浴衣に、花柄の羽織を着て、二色裏表の帯を付けていましたが、演技や俳優さん達の顔がわかりにくくなっていました。

せっかくのTVドラマで自分の顔がよく見えていないなんて、俳優さん的にとても可愛そう。

 

 

と言ってもよくわからない人もまだまだいると思います。

ネットで見つけたポスターが良い例えかもしれません。

 

 

 

 新しいメニューのポスターだと思いますが、このポスターで食べ物の美味しさが伝わるでしょうか。

このポスターで「美味しそう~、今度食べに行こう」と思うでしょうか。

とてもきれいで目を引くデザインですが、これを見て食べたいと思わせなければ失敗だと思います。

 

 

 

戦前から続く婦人雑誌「主婦の友」の以前掲載された随筆に

「ゆかたの美しさは清潔の一語につきるのではないだろうか。ゆかたの時、マニキュアやペディキュアの色がうるさく暑苦しくみえるのもそのせいだろう。・・・」(1965年6月号掲載)

 

そんな昔の意見なんて・・という人もいるでしょうか、今以上に多くの人が着物を着ていた時代です。今以上に様々なデザインの着物が溢れていた時代の方が「きれいと感じる浴衣」について語っているわけですから、やはり浴衣に関しての感性は見習うべきものがあると思います。

 

この随筆は本仕立ての浴衣ですが、旅館浴衣も同じイメージの延長です。 

まず旅館・ホテルで提供される浴衣のいちばん大切なところは「清潔感」。他人が着た浴衣を今度は自分が着るのですから、譲れないところで「清潔感」。その上で、その旅館・ホテルのコンセプトに有っているかになります。

 

 

 

 

という話の上で、今使われている浴衣はどうでしょうか?

宿泊されたお客様が袖を通したくなる浴衣でしょうか?

確かに浴衣は宿泊を決める条件には入りませんが、二度と宿泊しない条件には入ります。

中国製でも日本製でもかまいませんが、きちんと機能のあるデザインの浴衣であることは重要だと思います。