旅館浴衣を注文した時、100枚注文したら108枚出来てきたとか、出来上がり数が注文数きっちりにいきません。
いや、きっちりでお願いしますといえばきっちり納品もできますが、特に言われない限りは出来上がり枚数が多くなります。
何故か!?
実は業界的には、旅館浴衣は多少増えてもかまわない、というのが常識だったりします。
旅館浴衣は経理の科目は「消耗品」。資産ではありません。
また多少数が増えても元々常に補充していかなければいけない物ですので、多少出来上がりの数量が増えても消費されていくものです。
その他にも理由があります。
希望の数きっちりで浴衣を作る場合、例えば100枚きっちりの場合は浴衣1枚分の生地を100枚分準備する必要があります。
ただ、前提として100枚分の生地に不良がまったくないことが必要です。
でも”100枚分の生地全て不良がない”ということはありえません。
なので100枚分以上の生地を用意する必要があります。
例えば、110枚分の生地を用意して、そこから100枚作るということになります。
本来、1枚の浴衣は「1枚分の価格」+「1枚分の縫製工賃」、これで1枚単価が出てきますが、110枚分の生地を生地を用意しなくてはいけない場合は「1.1枚分の価格」+「1枚分の縫製工賃」となります。
「1枚分の価格」+「1枚分の縫製工賃」<「1.1枚分の価格」+「1枚分の縫製工賃」
消耗品ってできるだけ単価を下げたい物ですが、きっちりの数にすると単価が上がることがわかると思います。
更に旅館浴衣は、お客様である旅館・ホテルごとにサイズが異なります。
中サイズだけでも、身丈138cmのところもあれば身丈150cmのところもあります。
当然、使う方としては中だけではなく、小サイズも大もあれば、特大、肥満用、特小などもありますし、作る枚数もそれぞれです。
となると、必要な生地の長さもそれぞれ違うことになります。
浴衣の生地は、長さがきちんと決まっている訳ではありません。
小巾だったら1ロット12反。広幅だったら1本約100m。
小巾の1反は10~11m。元々1反とは着物1枚作れる長さの生地の事。昔は9mでしたが、今は10~11m。他にも12m、13mの場合もあります。で、旅館浴衣用の小巾生地は12反続いていますので、120~132mくらいの長さになります。
広幅の生地は乱尺です。1本約100mですが、実際は95mの物もあるし105mの物もあります。なので生地屋さんに300m注文した場合、いろいろな長さの生地を組み合わせて、298mや303mくらいになるようにした生地を送ってくれます。
他にもプリントをする工程でも、染め不良が出てくる場合があります。
浴衣に使われる生地は、当然のことながら”糸”で出来ています。その糸が織っているときに切れたりはみ出したりする部分もあり、そこのところにプリントがのってしまい、染め不良となる場合も出てきます。
じゃあ不良部分は全部使えないかというと、不良の箇所、程度によって使える場合もあります。
さあて、以上の事柄を含めて、旅館浴衣100枚きっちり作るにはどのくらいの生地を準備すればよいでしょうか。
ええ、答えは聞くまでもなく、上にも書いたように、多めに生地を準備してそこから100枚だけ作るしかありません。
で余った生地は、製品である100枚の浴衣に上乗せします。
でないと利益が出ません。(利益が出ないのなら仕事ではなく、どうせなら作らないほうが良いです)
けっこう細々書きましたが、消耗品である旅館浴衣です。
不足すると大変ですので、次々と買い足して使っていかなければいけません。
そのためにも、単価は安い方が良くなります。
で、きっちりとした数にこだわって単価を上げるよりも、数が前後しても良いから単価を下げたいというのが業界の考えです。
第一、きっちりとした数にこだわる理由ってなんでしょう?
まぁこだわるには様々な理由があるかもしれませんが、単価が上がっても良いほどの理由って無いんじゃないかな、と思います。
旅館浴衣の注文の際、大体数サイズ作りますので一番多いサイズに振り分けます。
つまり「大30枚、中40枚、小30枚」だったら中サイズを増やします。
多いサイズ=よく使うサイズですので、一番良く使うものを増やす感じです。
いきなりですが、価格は手間がかかると高くなり手間がかからないと安くなります。 ・・まぁ当たり前ですが。
浴衣を縫製する時、というか縫製前の部品取りの時に、例えば先の「大30枚、中40枚、小30枚」だったら、数の決まっている大サイズと小サイズを取り、残りを中サイズにします。
ところが、「余分に出来た分を均等に大と中に分けて」となるとどうなるか。
「大30枚、中40枚、小30枚」を取った後、残った生地の長さを測り、新たに伸ばして大と中を取り分ける、という作業になります。
さて、残り全部を中サイズにする場合と均等に大と中に分けた場合、どちらが手間がかかるか。もう言うまでもありません。
手間がかかる=工賃がかかる、となります。
「残り生地を大と中に均等に分けるとなぜ単価が高くなるの?」それはそれだけ手間がかかっているからです。
人が動くとお金がかかります。
動いてもお金がかからないのはボランティアです。
縫製工場も染工場も仕事でやっていますので、手間がかかればそれだけお金がかかります。
当たり前の事ですが、なかなかわかってくれない時代になりました。
旅館浴衣の単価を下げるには、どれだけ手間をかけずに作るか、になります。
(けっして品質を下げる、ではありません)
旅館浴衣はできるだけ単価を下げたい物ですので、作る方もどれだけ手間をかけずに作るかを考えた結果、出来上がりの数が増えることに落ち着いています。