夏祭りや花火大会の時等に着ていく一般的な本仕立浴衣は、大体が小巾の生地で作られています。
広い幅の生地を使うときもありますが、その場合でも小巾の幅に裁断してから仕立てます。中には裁断しない場合もありますが、背中の中心を摘んで縫っていかにも小巾生地で作りましたよ、みたいな顔をしています。
旅館浴衣も元々は本仕立浴衣から派生したものですので、基本的には「小巾」の生地を使います。
ただ旅館浴衣は価格が非常に厳しい物。旅館・ホテルの消耗品ですので、とにかく安く安くを求められます。
また旅館浴衣は寝間着であり、外に着て出ていくためのものではありません。
ということもあり、本来小巾生地で作られていたのですが、広巾生地を使って作られるようになってきました。
なぜ浴衣は背縫いがあるのか。
小巾の生地は、本仕立の浴衣用の生地で38~40cm、旅館浴衣用の生地で36cm。コレ一枚だけでは背中の幅が足りないため、横に二枚つなげて仕立てるのです。
でもなぜ本仕立の浴衣で広幅生地でも背縫いを作るのか。
それは浴衣(着物)は洋服のように肉を包むのではなく、身体の骨をポイントとしているからです。
骨がポイントとなると、背中というと上から見ると肩の骨がありますが、この肩の骨をポイントとした場合背骨部分に何もないと着姿が崩れてしまいます。
そこで背縫いを入れると背縫いが浴衣の背骨となって着姿がきれいになり、さらに着心地も良くなるのです。
ところが旅館浴衣の場合は「寝間着」です。
寝間着は外で着ることを考えなくても良いのです。
なので、旅館浴衣は広幅の生地を使うときに背縫いを入れません。
基本的に旅館浴衣も小巾の生地を使って作られます。
ですが一時小巾生地の生産が少なくなり手に入りにくい時期がありました。
そこで広幅の生地を使用するようになったのですが、広幅生地で作った場合は生地の価格も上がるし仕立て工賃も上がります。
でも小巾生地は手に入らない・・・
そこで行われたのが「小巾生地の浴衣のネガティブキャンペーン」です。
・小巾生地を使った浴衣は背縫いから破れてくる。
・背縫いがあると寝た時にゴロゴロあたって気持ち悪い。
・もう小巾生地の生産は無くなった。
などなど・・・
けっこう大きな商社が広げていったので、今でも信じている人がけっこういます。
こんな根も葉もない話を言って営業かける方も大概ですが、信じてしまう方も大概です。
小巾の生地は着物を作るのに適した生地幅ですので、使用されるほとんどが日本国内です。
でも広幅の生地は洋服も作れます、というか元々が洋服用の生地です。
広幅生地で旅館浴衣を作る場合、生地の入手が楽な海外でも作ることが出来ることとなります。
まして浴衣はすべて直線縫い。洋服のような曲線部分はありません。
広幅生地を使った旅館浴衣を売るため、「小巾生地の浴衣のネガティブキャンペーン」はより一層強まることとなりました。
じゃあ小巾の生地は、というと広巾生地で旅館浴衣を作る業者が増えたため、使用量に余裕ができ、今では普通に使うことが出来ます。
先にも書いたように、小巾生地を使ったほうが生地代も仕立て工賃も安くなります。
小巾生地のプリント、縫製は日本国内でしか出来ませんので、海外製に比べると価格は若干高いが良い品質の浴衣が出来ます。
「え、それなら広幅使った浴衣を作っているトコロも小巾にすれば良いじゃん。」と言いたいところですが、今までネガティブキャンペーンを行ってきたところが手のひらを簡単に返せるわけでもありません。
結局今でも広幅生地を使った旅館浴衣を作り続けるしかなくなっています。
今回の新型コロナ禍、ロシアとウクライナの戦争などで繊維製品の価格が上がっていることは、皆さんご存知だと思います。
もちろん浴衣用の生地の価格も上がっています。
が、広幅の生地の価格上昇は小巾生地よりも大きく、上がり幅はドン引きするくらいだったりします。
けど広幅生地押しの会社は広幅しか無いし、第一生地へほどこすプリントのプリント型が広幅で作ってしまった場合はいくら生地が高くても広幅でしか作れません。
ところで弊社は、というと基本的に小巾の生地を使って作ることを推奨しています。
生地問屋さんも小巾生地を確保してくれています。
もちろん場合によっては広幅生地も使いますが、割合とすれば小巾生地を使うほうが多いです。
やっぱり旅館浴衣といえども小巾生地を使い、「背縫い」があったほうが気易く着姿がきれいですので、おすすめです。