※今回の写真は、全てフリー素材を使っています。
改めて考えてみますが、そもそも旅館浴衣とはなんでしょうか。
この「旅館浴衣」という名称は決まったものではありません。
同じ浴衣を指す言葉で「温泉浴衣」という言葉もあり、業界的には「リネン浴衣」のほうが一般的だったりします。
ただどんな浴衣なのかというと、旅館やホテルなど宿泊施設に泊まった時、「寝間着として使ってください」と提供される浴衣の事になります。「寝間着として使う」モノですので、本来の浴衣の仕立て(本仕立)ではとても使いにくいため、色々な部分が変更されて作られています。
寝間着として使うには、袂があると寝返りを打った時に巻き込んでしまいますので袖は筒袖にします。
また洗濯した時に袂があると、そこにゴミが溜まってしまいますし空気が上手く抜けずに破れてしまいますので、その点からも筒袖が最適となります。
寝間着として使用するため、価格は抑えたいポイントです。
そこで生地の要尺を少なくするため、衿やオクミの幅を狭くしています。特にオクミは寝間着として立ち姿を重視しないので、見頃との重なり部分をなくした縫製にしています。
「筒袖」「衿巾」「オクミ」これらの変更だけでもかなり要尺を減らせます。
ちなみに、要尺が減らせる=使う生地の量が少なくて済む=生地代が安くなる、ということです。
また宿泊施設から提供される浴衣ですので、同じ浴衣に不特定多数の人が着ることになります。
なので洗濯は毎回するのが当り前ですし、その洗濯も通常の家庭での洗濯の何倍も激しくしっかりと洗い尽くすような洗濯をします。
これって浴衣の生地にはとても大きなストレスがかかります。
なので旅館浴衣には特殊な専用の顔料プリントでプリントしますし、耐久性のある色をできるだけ使うようにしています。
残念なことに、今流行りの「選べる浴衣」サービスは洗濯の事を考えていません、
なので一見派手できれいに見えるデザインですが、数回の洗濯で毛羽立ち・色落ちが目立ってしまいます。
ちょっと見窄らしい浴衣になってしまいます。
本来、旅館浴衣の製造をするプロでしたら、色落ち・毛羽立ちまで考えてデザインをしなくてはいけません。
でないと、宿泊されたお客様が気持ちよく手を通せません。
また洗濯を担当するクリーニング屋さんの手間がかかることになります。
クリーニング屋さんの手間がかかるということは洗濯代が高くなるということで、洗濯代:経費がかかるとなると宿泊代も上げないと行けない。もう悪いことばかりです。
また旅館浴衣は不特定多数の人が着ます。
男性女性だけでなく、太い人細い人、背の高い人から低い人まで。いろいろな人が着るものです。
なのでどんな人が着てもよく見えるデザインでないといけません。
カタログに載っているようなモデルみたいな人ばかり宿泊することはありません。
最近、旅館の浴衣が寝巻きとしてではなく、コスプレ衣装のような扱いになっていることが増えてきた気がします。
「旅館に泊まった時くらい、普段着ない浴衣を着てみよう」
でもせっかくの旅行の思い出なら、奇抜な様子の写真よりもきれいな写真や思い出のほうが良いのではと思います。
もちろん浴衣単体で泊まった旅館・ホテルの思い出が決まるわけではありません。
泊まった旅館・ホテルの館内に合った浴衣、全てが同じイメージでまとめられていることが大事だと考えます。
浴衣単体だけで考えるのではなく、浴衣も旅館・ホテルのイメージを形作るものの一つとしてデザインされるべきものであり、さらに消耗品として使いやすさも兼ね備えたものであることが大切だと弊社では考えています。
※今回使用した写真は、全てフリー素材です。