本仕立て浴衣や旅館浴衣のご注文の時、「大きなサイズは巾も広くしてくれ」みたいなご要望をよくいただきます。
基本的に本仕立て浴衣にしろ、旅館浴衣にしろ、もっといえば着物にしろ、基本的に使う生地は小巾という尺巾の生地を使います。その尺巾の生地をあまりなく使って仕上げるのが浴衣や着物です。着物や浴衣一枚分作れる生地が「1反」になるのですが、それはまた今度説明するとして・・・
尺巾=約36cmですが、そのままですと人が着るには巾が不足します。
なので横に並べて二枚つなぎ合わせて、仕立てをします。
横に並べて二枚つなぎ、前の部分は重なりが必要なので、別パーツを足して重なりを作ります(オクミ:奥身)
生地が36cm巾。
横に並べて72cm。
縫い代が4箇所あって、それぞれ縫い代が1.5cmとして縫い代6cm。
仕立てた後の浴衣や着物の巾は約66cm。
Googleで検索してみると、人間の平均的な肩幅は
「「設計のための人体寸法データ集」によれば、人間の肩幅の男女平均は43.2センチである。 この数字だけを見るとやっぱり43センチで十分に思えるが、男性に限れば肩幅が43センチ以内に収まる人は全体の10%程度にすぎない。 男性の肩幅の平均は45.6センチだ。」
平均なので誤差は多少あるにしても、66cmの巾があれば大抵の人には充分対応できます。
(もちろん、相撲取りのような体型なら別ですが)
なので、結論から言うと、浴衣の巾はサイズが大きくなっても基本一緒の巾です。
じゃあ本当に一緒なのか、小さい人も大きな人も同じ寸法で対応できるのか、というと目安になるのが肩の位置。
人の巾の基本は肩の位置になります。
実際の浴衣を見てみると、肩の位置は縫い目の位置とは随分とズレたところにあり、それが余裕となっていることがわかります。
上記の写真は「旅館浴衣」です。
正面から見ると、浴衣の巾=人が着たときの巾、のように感じますが、トルソーに着させたときの縫い目と肩の位置をみると位置がかなりズレているのがわかります。
旅館浴衣だけじゃなくって、本仕立て浴衣は、というと、やっぱり同じ用に肩の位置と縫い目の位置は違います。
フリー素材の写真を見ても、違うのは一目瞭然。
なぜかというと、先にも述べたように基本的に小巾生地を横に2つ並べて縫い合わせているから。
そこに同じ生地幅の袖を付けるので、先に載せた旅館浴衣の正面図のように正面から見ると小巾生地が4枚並ぶことになります。
4枚分の巾があって、人間の体の幅と腕の長さをまかなうわけです。
※基本的にですが。詳しく言うと専門知識が必須になるので、ここではサラリと。
なぜ一番最初に上げたように、「サイズが大きくなったら巾を広くする」みたいな要望が出てくるかというと、着物を着たことがない・浴衣を知らない人が多いからになります。
フリー素材の浴衣のイラストをみてもそう。
本当に知らないんだ、みたいなイラストばかりです。
なんでこんな間違いイラストになるかというと、洋服を基準として考えているから。
服=洋服だからです。
洋服ですと肩の位置と縫い目の位置が一緒で、だからサイズが大きくなると巾も大きくしなくては着られなくなってしまいます。
だって余裕がないから。
つくづく感じるのは、以前紹介した洋服のデザイナーさんの言葉です。
「洋服は肉に合わせて作るけど、和服は骨に合わせて作る。洋服と和服はぜんぜん違うもの」
そうそう、上にあげたイラストですが、もっと酷い部分があって、肩のところに縫い目があるということは、シャツと同じ用に前の部分と後ろの部分を別々に裁断して、肩で縫い合わせているということ。
浴衣や着物には、肩のところに縫い目はありません。
けっこうきれいなイラストなのに、本当に着物や浴衣を知らない人が描いた事がわかって、本当に残念です。
せめて本物の浴衣をみて描いてほしいと思いますが、このようなイラストがなんの不思議もなく受け入れられているのが今の二本の現状です。
まぁイラストはイラストですので仕方ありませんが、現物はそうはいきません。
きちんと伝統に基づいた仕立てで作っていますので、このような形にはなりません。
安心して着ていただけます。