先日、仲の良い問屋さんと話をしていた時に聞いた話ですが、今注染工場が完全に生産量以上の注文数が入ってきていて目一杯工場が動いている最中なのですが、某注染工場の社長さんが電話で怒鳴り散らかしていたとのこと。
「そんなにしょっちゅう電話かけてきたって、出来ないものはできうないんだから。もうアンタのところの注文はやらないから!」
注染工場っていっても小さなところばかりで、社長以下従業員みんなで現場で仕事をしているのがほとんどです。
この怒鳴り散らかしていた社長さん、自分が知る限りとても穏やかでおとなしい方。ひたすら仕事に打ち込むような職人さんです。そんな方が怒鳴り散らすってよっぽど余裕がないんあだぁ、と問屋さんは言っていましたが、自分の考えは違います。
浜松の問屋さんでは、とにかく煩く煩く煩く工場へ電話をする伝統・・・というかそうゆうやり方をする人がけっこういます。
以前自分が働いていた会社の社長もソレでした。
毎日毎日工場に電話をします。出来上がり予定のかなり前から、しょっちゅう電話をします。
「うるさくいわないと、他の会社の仕事を先にやられてウチの仕事が納期通りにできなくなる。」
これが社長の口癖でした。
以前勤めていた会社の社長は、中学卒業後ずーっと浜松の繊維業界で働いてきた人です。
なので良い意味でも悪い意味でも浜松の繊維業界の営業方法を続けてきた人でした。
浜松の繊維業界の営業方法は、ホント他の地域から嫌われまくっていました。
とてにかく「汚い!」と言われてました。
例えば、「見積はすぐに出すな。二番手か三番手に出せ。」
なぜかというと、後でそのお客さんのところに行って、「ウチは先に出ている見積金額の◯◯円引きでやりますよ。」
他にも、お客さんのところで仕入れ伝票を出し「ウチの仕入れはこれなんです。これにいくら乗せればウチに仕事をくれますか?100円でも50円でも好きな金額を言ってください。その金額でやりますから。」
こうゆう営業の仕方は他では聞いたことがありません。
そりゃあお客さんは大喜びで仕事をどんどんくれます。
でも利益が少ないでしょ・・いやいや決まってから仕入先を叩くんです。恫喝し、他の仕事の旨味をちらつかせ、いろいろな手段でしれ先を叩きまくります。
ホント、「汚い」と言われるのもよくわかります。
今、浜松の繊維産業はどんどん落ち込んでいってます。
でもソレはしょうがない、互いに下をくぐり続ける営業を続けた結果、業界自体が立ち行かなくなるのは当然です。
きっと他の地域の方々はせせら笑っているでしょう。
例えばもう一つ。
「新商品は考えるな。売れている商品があったら、それを真似してもっと安く作って売れ」
これも社長によく言われました。
この言葉通りなのが「カゴヅケ」と言われる染色技術。
浜松文化芸術大学の生徒と先生がこの技術を「誇れる浜松の繊維技術」みたいに言ってますが、実際は安いパチ物を作る技術で、誇れる技術じゃないんだけどなぁ、と思います。
そんな繊維業界叩き上げの社長もすでに亡くなってもう10年。
その息子が会社をついで続けていますが、仕入れ価格をお客さんに提示する営業をやっていたのは浜松の伝統を受け継いでいるということでしょう。
残念ながら自分は全然引き継げなかったようで・・・て、残念だとは思いませんが。
亡くなった社長と同年代の方々も、浜松の繊維業界にはたくさん残っています。
当然のごとく昔からの営業のやり方も続いているわけで、だから冒頭書いたような穏やかな注染工場の社長さんを激怒させてしまう事になったのでしょう。
作り手と売り手、買い手が皆幸せになるのが弊社の理念なのですが、同じ浜松市の会社が未だに昔の「汚い」営業方法を続けているのは、耳に入るたびに恥ずかしく感じます。