※こちらの記事はフィクションです。
多少、実際のお話を元にしている部分もありますが、基本的には創作です。
某温泉地の旅館様からの問合せでした。
「地元のアーティストにデザインしてもらって、それで旅館浴衣を作りたいんですが、作ることはできますか?」
作ることはできます。具体的にはどんな浴衣なんですか?
「ああ良かった、作れるんですね。実は地元のアーティストの方にデザインしてもらった浴衣を地域で貸し出そうと思って。お客様にその浴衣を着て外湯巡りを楽しんでもらおうと、今そんな計画を立てている最中です。おもいっきり派手なデザインにして、他にはない浴衣にしたいと思っていて。で、一枚いくらくらいになりますか?」
派手な感じで・・・、となるとインクジェットプリントですね。
「そうそう、インクジェットでプリントしてもらって、で、一枚いくらくらいです?」
いくらというか、まず使い方からすると、お客様に貸し出すということは当然洗濯をして貸し出すんですよね。インクジェットプリントは繰り返しの洗濯に弱いです。通常の日本製の旅館浴衣は”ディクセル方式顔料プリント”と言って、繰り返しの洗濯を前提とした特殊なプリントで作られています。この”ディクセル方式顔料プリント”は最低100回の洗濯出来ることを考えて作られています。インクジェットは顔料を生地に吹き付けているだけですので、半分以下・・・洗い方によっては30回とかしかもたない可能性があります。でそれを承知していただいて、ざっくりと価格を言うと・・・
「え・・・、で、いくらくらい?」
だいたい1枚、2万5千円くらいでしょうか。布用のインクジェットはインクが非常に高価ですので、そのくらいかかると思います。
さらに別途ソフト変換代がかかってきます。
「2万五千円くらいかかって、でも30回くらいの洗濯回数・・・。」
ちなみにデザインは、同じ柄が繰り返される「総柄」ですよね。
「あ、総柄と言うか、できるだけ大きく前面にばーんとデザインしたいんです。」
となると、”絵羽浴衣”になりますね。さっき行った金額は”総柄”の金額ですので”絵羽柄”でしたら、大体7-10万円くらいかかります。”絵羽浴衣”というのは、着物で言うところの「京友禅」とか「振り袖」のようなものを安価で浴衣に置き換えたようなものですので、「京友禅」や「振り袖」のように一般的に数十万円するものを、安い浴衣で再現しているわけなので、まぁ10万円以下でできても安いですよね。しかも柄合わせが必要ですのですべて手縫いになります。
「え、そんなにするんですか・・しかも作っても30回くらいしか洗濯できない・・・」
今考えられているのは、何枚くらいでしょうか。
「20-30枚くらいです。」
となると、200万円から300万円くらいの予算が必要ですね。
「いやそんなに予算はないです。」
金に糸目をつけなければご希望の浴衣はできますが、まぁ現実的ではないですよね。
「わかりました、ありがとうございました」
いえ、ちょと待ってください。バブルのときにには色々なホテルや旅館で有名なアーティスト、デザイナーの方にデザインしてもらった旅館浴衣が色々なところで作られました。今でもデザイナーがデザインした浴衣を使っているところもあります。一概にだめと決めずに、「旅館浴衣の場合はこうゆう制限があるから、その制限内でデザインをしてほしい」とお願いすれば良いと思います。その方が長く使える良いものができますよ。
「ありがとうございます。わかりました・・・」
と連絡が途切れてしまったのですが、旅館浴衣は旅館やホテルで使われるために色々な特徴があります。
それを踏まえてアーティストにデザインを作ってもらう、これは全然問題はないことです。しかも地元直結の案件なら、嫌な顔もしないと思います。
ですが、残念・・・今回お問い合わせをくださったお客様は、自分の思ったとおりにならなかたので途中で諦めてしまいました。
まぁ、全部想像のお話なのですが。