「絵羽浴衣」とは、決まった場所に決まったデザインが出ている浴衣のことです。
例えば、裾に千鳥と波が舞っていたり、裾と右袖に大きく斜めのデザインが入っていたりする浴衣です。
あと、よく問合せいただく「背中に大きくロゴを入れる」とか「左胸に一箇所ロゴを入れる」とかも絵羽浴衣になります。
絵羽浴衣は、踊り用として使われることの多い浴衣です。
色々な問屋さんが作っていた踊り用のカタログ(通称 ブック)があります。
そこには絵羽浴衣だけでなく半天、ハッピなど日本のお祭りの時に使用する様々な用品が載っています。
で、このカタログを発行している問屋さんは、載っているもののほとんどを在庫として持っています。
実際に市内にある問屋さんの倉庫に以前行ったことがあるのですが、その商品点数の多さにびっくりしました。
その問屋さんが作ったカタログを小売店さんがみて注文をする、もしくはお客様に提示して注文をいただク流れになります。
小売店さんは複数の問屋さんと付き合いがありますので、このカタログもいくつか持っていて、このハッピならこちらの問屋さん。この帯だったら別の問屋さん、みたいな使い分けをしていました。
で、絵羽浴衣です。
各地で行われるお祭りのとき、地元の着物屋さんに注文をしてあつらえることが多いと思います。
で地元の着物屋さんは、問屋さんにお願いして1枚とか2枚とか、必要な枚数を注文します。
反物で在庫している場合は、自分のところで仕立てます。
出来上がった製品で在庫しているものは、そのまま渡します。
これが新型コロナ禍の前までの流れでした。
新型コロナ禍の間はお祭りもなく、どこかに出かけることも少なくなり、地方の着物屋さんも店を閉めたところがたくさん出ました。
カタログを発行している問屋さんも締めたところもあり、また在庫をできるだけ減らしてなんとか乗り切ったところもあります。
以前は当たり前にあった「絵羽浴衣の在庫」、これが無くなりました。
今、新型コロナが5類に移行し、今年から以前のようにお祭りが行われるようになりました。
が、絵羽浴衣の在庫はありません。
そもそも絵羽浴衣は、作るのに非常に手間がかかります。
一般的な総柄の浴衣よりも手間がかかるものです。
なので以前は見込みで在庫を作って持っていましたが、新型コロナ禍の渦中では在庫はできるだけ減らして乗り切る会社が多く、見込みで在庫分の制作なんてそんな余裕がある会社なんてなかったと思います。
絵羽浴衣を作るのは大変です。
一般的な「総柄」「繰り返し柄」の浴衣を作るのよりも手間がかかります。
浴衣は、生地を縫い合わせて作る衣類ですので、全身に縫い目があります。
縫い目があるということは、Tシャツのように転写プリントやシルクスクリーンプリントを出来上がった製品に後からプリントすることはできません。縫い目の部分で抑えが効かなかったり、プリント型が浮いてしまったりするからです。
じゃあどうするのかというと、各パーツごとにプリント(捺染)をして、それを縫い合わせるわけです。
布地と言うと伸びたり縮んだりする不安定なものです。
デザインが続くようにしていると言っても、縫い白だってあるわけなのですから、きれいに続くようにするにはとてもむつかしい。
ちょっと引っ張れば柄の続きなんて簡単にずれます。
気を付けて各パーツを縫い合わせて、一枚の浴衣がようやく完成するのです。
ちなみに浴衣には”8パーツ”必要です。
それぞれに色をつけるわけですので、捺染でしたら8個の型が必要です。
インクジェットで作る場合、たとえば小巾で作る場合は反物の長さ分のデザインデータが必要です。
また広幅で作る場合は生地が動きやすくなるため、非常に気を使う、あと手間と経験が必要な作業が必要です。
小巾生地は和裁の工場で裁断できますが、広巾生地のときには要塞もできる工場でないといけません。
裁断台の大きさが違うからなのですが、いやここまで書いてみて、絵羽浴衣は本当に大変。
いやだからね、いきなり電話がかかってきて、「お祭りで使いたいから1週間位でできる?」とかいわれてもできませんし、
「できるだけ安く作りたいんだけど・・」みたいな問合せもらったってできません。
そりゃあ、今までお願いしていた地元の店がなくなった、って困っているのはわかりますが、そんなに簡単に作れる物じゃないんです。
先にも書いたように、カタログを発行している問屋さんが今までは在庫をして・・・という場合、自社のカタログに載っている浴衣は、作る際に染型も作っているわけで、その型を他の会社が自由に使えるわけではないのです。
同じデザインの浴衣を作るのなら、また新たに自分で型を作らないといけないのです。
きちんと「絵羽浴衣を作りたい」と相談くだされば、こちらも真摯に受け答えさせていただきます。
軽いノリで「作れる?作れなかったら他所に聞くからいいけど」みたいな感じで言われると、じゃあ他所でお願いしますとなります。
夏祭り、秋祭りと、まつりの時期が近づいてくると、軽いノリの問い合わせが増えてくる傾向がありますが、今絵羽浴衣ができるところは本当に少なくなってきていて、捺染でできるところは日本に一箇所。それを縫える工場も5件と無いでしょう。
絵羽浴衣は作るのに手間がかかるのですが、その手間がわからない方が増えていますので、本当に大変です。